「蘇州夜曲」のできるまで。 前編
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さて、蘇州夜曲を描く事にしました。
蘇州夜曲と言えばこれはもう、懐メロ界の四番打者、プロレス技でいえばブレンバスターともいえる名曲であります。

作詞 西条八十、作曲 服部良一、歌唱は渡辺はま子と霧島昇のデュエットとなっております。
デュエットといっても、一番渡辺、二番霧島、そして三番はまた渡辺と。一人づつ歌っていて、二重唱はないようです。

時代を超えていろんな人に歌われている楽曲ですが、ここはやはり昭和15年に発表されたこのオリジナル盤でお願いいたします。
何をお願いするのかわかりませんが。

歌詞はこちらから。

元々は李香蘭主演の「支那の夜」という映画の主題歌でありまして、YouTubeで動画が見れるようです。

さて、まずは例によってザックリとしたラフです。

どうですかこのザックリぐあい。
どうゆう事になっているかというと、水の上に架かった橋の上で寄り添う男女。
そして桃の花、柳、おぼろ月、など、ということです。

今回も明確な出来上がりのイメージを持たぬまま、手探りで始めてしまいましょう。

とりあえず人物からまいります。

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下書きです。

後で重ねてしまいますので男性の右腕はいらないのです。
足もとも橋の欄干に隠れる予定なので割愛です。
おや、女性の腰のあたりにある謎の矢印はなんでしょう。
これは反転の印です
実は私は右向きの人物を描くのを非常に不得手にしておりまして、こういうことをよくやります。
最終的にこの女性は男性の方を向き、君がみ胸に抱かれて聞くは的な事になるわけです。

今回はここに至るまでの過程を見せてしまいましょう。

女性の方はすんなりといきましたが、男性のポーズに迷っていますね、帽子は無しにしました。

ではサックリとベジェってしまいます。

映画で李香蘭の相手役になっているのは長谷川一夫で、船員役なのでマドロスのような格好をしていますが、この絵では白っぽいスーツを着た長身の男性にしてみました。

なんかキザ野郎な感じになりましたね。

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女性の方もスイスイと、胴体なんてアウトラインだけですね。
描き終わったら右側を向いてもらいました。
手には君が手折りし桃の花を持つ予定。

チャイナドレスの柄を作ります。

ボタンの花が縁起が良いようでよく使われるらしいです。
太めの線で描いてアウトライン化した後、分割して中の方、線じゃない黒い方ね、そっちを使う事にします。

適当に配置して色を決めドレスの形でマスク。
本人や男性の腕が掛かる事を考えてせっかくの花が隠れてしまわないようにしましょう。
色は背景などの様子を見て、最後に決めてもいいですね。
いやよくないですね、そういうプランは最初にきちんと決めておくべきものです。

本来は。

というわけで、今はとりあえずピンクでお願いします。
何をお願いするのかわかりませんが。

はいお待たせしました、重なりましたよ。

重なってわかった事があります。
だいたい男女というものは重なって初めていろんな事がわかるものです。

左の絵は下書きをトレースしたままですが、男性がなんだかよそよそしいような感じがしました。
そこで頭の角度を少し下げてみましたところ、これだけでよそよそしい感が消えて、いとしい感がアップした様な気がしませんか。しますします。

わずかな角度の違いで、印象が大きく変わったりすると思いませんか。
もちろん思います思います。
これは人物表現の重要なるポイントではありますぞ。わかりましたか。
わかりましたわかりました。

実は女性とのバランスを考えて、男性の頭全体をほんの少し大きくもしてあります。
デジタルはこういう事が簡単にできるのが本当によいですねえ。

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桃の木を描きます。

水の蘇州の花散る春をということで、花びらを散らせる予定でいきましょう。

両岸に一対で二本置きます。
まず幹と枝を線で引きまして。
色をつけますと、このように。

なります。

花を作ります。
これを枝に付けてゆくわけです。

桃や梅の花は桜とは違って、細い枝に並ぶように花を付けます。
この枝をさきほど描いた木の枝の先に方向をあわせて付けてゆきます。

花自体が小さく密になりますので花ごとに全部グラデーションがあると気持ち悪くなりました、よって一部を残して花びらの濃淡だけにします。

このままでは寂しいので、隙間を埋めます。

とりあえずこんな感じで置いときましょう。

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蘇州夜曲という歌を初めて聞いたときは、一組の男女が舟に乗って、舟というか小さなボートの様なものに、中国風の、そんな感じのモノに乗って、水の上でシッポリと、みたいなイメージでした、夢の船歌鳥の唄という歌詞のせいかも知れません。

ちなみに夢の船歌恋の唄、と紹介される事もあるようですが、鳥の唄、が正しいようです。

今回は船ではなく、橋の上でたたずむ二人という事にしました。

こんな感じの石橋を作ってみます。

はい出来ました。
存外に時間がかかってしまいました。
下書きはカッチリとという鉄則を守らなかった報いでございます。

まあ下書きに時間をかけても、ソフト上で時間をかけても、トータルでは同じかも知れませんが、自分はIllustrator上であれこれしたくないので、下書きに時間をかける派なのですね。

しかしどうでしょうこの湾曲、どうやって渡るのでしょう、だいたいどこからどこにどう掛かっているのでしょうか、とかそんな事を考えてはいけません。
そんな事を考えて絵を描いてはいけません。
私はそんな事を考えて絵を描いてはおりませんのです。

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本日は8月15日です。

蘇州夜曲が発表された昭和15年といえば、アジアでも欧州でも戦争の真っ最中です。
人々の生活はどういうものだったのでしょうね。

「贅沢は敵だ」というスローガンや国民服令というものが公布されたのもこの年です。
大政翼賛会の出来た年でもあります。
一般国民の暮らしは、次第に窮屈なものになっていたのかもしれませんね。

この曲を主題歌のひとつとする「支那の夜」という映画も、そんな中で作られたいわゆる国策映画の一本とされています。

それはともかく、私たちは“ロマンティック”という事だけをテーマに、描き進めてまいりましょう。

部品ばかり作っていてもしょうがないので、ここであらためてちゃんとした構図的なものを確認します。

どうですちゃんとしてるでしょ。
手前に橋、その上に重なる二人、後ろの両岸に桃の木、さらに後ろに向こう岸、そこに柳の並木、その奥にも木立が重なり、お寺の塔、夜空、おぼろ月、それぞれが水面に映る影、一番手前にも柳の枝、散る花びら、というような事です。
確認できましたか。

では、現在出来ているものを配置してみましょう。

こんな感じですね。
いつのまにか女の人が花を持っています。

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桃の木が生えている両岸を作ります。

土というか岩というかが露出している感じにしました。

その上に緑の地面をかぶせます。

水面に垂れ下がるように草を生やします。
水際の処理は水面を作った時に考えましょう。

もう一方の岸もちゃんと作りました。
反転流用とか出来るのがデジタルの利点ではありますが、あまりバレバレだと作品が軽薄になってしまいますね。

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